よい店舗空間をつくる条件
神戸の北野にある日本料理店・料和大道の移転プロジェクトです。
クライアントである店主は、同時にこの店の料理長でもある方です。そのため設計する私たちも、住まいの設計をおこなう際のようにクライアントに寄り添いながら考える、という姿勢で空間づくりに取り組むことができました。
このような仕事では、オーナーである方と料理人の方が異なることも多く、すると設計の際はやはり、オーナーの方なりの視点──お客がどのように過せる店にしたいか、どのような見栄えのインテリアにしたいか──に多くの比重がおかれることになりがちです。しかし、実際にお客をもてなすのは料理人やスタッフの方たちであり、その視点からの議論が十分できないまま設計が進んでしまう、ということも往々にして起こってしまうのです。
料理人やスタッフがどのように動きたいか、どういう目線でお客と話し、出迎え、送り出すか、店主のどういった所作をお客に見てもらいたいか──その空間を実際に生きていく人たちと徹底的に議論をし、プランニングする。そのようにつくられた空間が、結果的にストレスなく、気持ちよく接客がおこなわれる店となるように思います。
今回、オーナー=料理人であるということが、こだわり抜いた店づくりの条件のひとつかもしれないと気づかされました。店主であり料理人でもあるクライアントが、想いをこめて料理をつくり、お客様に提供する空間です。
クライアントの要望
- 十分な仕込み作業ができる厨房
- 魅せる厨房と隠す厨房をしっかりと分離すること。ステンレス製の厨房機器を客席から見えない位置に配置すること
- 客と店主が〈おいしく・楽しく・贅沢な〉時間をともに過すことができるカウンター空間
- 落ち着けてプライバシーを守れる個室空間(2室)
空間構成
- 厨房
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- 〈魅せる厨房〉と〈隠す厨房〉をしっかりと分離し、客席からステンレス製の厨房機器が見えないように。水栓ひとつまでこだわったものを。
- カウンター越しに見える店主の動きを徹底的にリサーチし、極限まで店主とともにレイアウトや動線計画を考え抜きました。一歩の動きを削る作業と、お客からの見え方とを同時に考え、最適なプランを導き出しています。
- カウンター席
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- カウンター席は一段上がり、周囲と程よく仕切られた空間です。一段あがることで着席した客と店主との目線や距離が近くなり、会話も弾みます。
- シルクのような輝きをもつカウンターは、店主とともに銘木店を巡り出会った樹齢100年を超える奈良県産の栃の木。6.5m・100mm厚の一枚もの原木から職人によって丹精込めて磨き上げられました。店主のカウンターへのこだわりぶりは、加工の途中でも木工所に出向き、手触りやカタチについて職人と議論をするというほど。
- 厨房の背面の壁に貼られているのも、職人によって一点一点丁寧につくられた肉厚の錫の板。並べたときに錫の板の模様が最終的にどうなるかまで想定してつくられています。
- カウンター席と通路は格子のダブルスクリーンで仕切られています。ふたつの格子の間に設えられた飾り棚には水面のように表現されたミラーが敷かれ、そこには職人業の江戸切子のちょこが飾られています。日本酒を飲む際、数十点ある別注の江戸切子からお好みのものを選んで飲むことができるのがこの店の名物。食器も別注の江戸切子を使い、客の目を楽しませているそうです。
- 個室
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- 各個室もテーブルと床材を異なる素材とし、表情を変えています。それぞれに一輪挿しや床の間があり、店主のおもてなしの心を表現する場に。
photo: akiyoshi fukuzawa
料和大道
所在地 | 神戸市中央区 |
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用途 | 飲食店 |
竣工年 | 2017 |
延床面積 | 25坪 |
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